【映画感想】マダム・フローレンス! 夢見るふたり(2016)
2016年。
裸の王様とその周りの人たちを舞台を変えて描いたような音楽映画です。
戦時中ですがお金持ちたちの生活は相変わらず豪華で何の変わりもない日常というのがまずびっくりです。
主人公のマダム・フローレンス(メリル)は声量はずば抜けているものの一言で言えば音痴。夫(ヒュー)が影でマダムの歌を褒めるように買収しています。
マダムは1000人単位で買収したり、バスタブを全部ポテトサラダにしてしまうくらいの経済力を持っています。
25年間もそんなことを続けていましたが、ついに本人がその事実を知ることになる・・・という流れです。
この映画ですがやっぱりメリル・ストリープという女優の偉大さを再確認しました。
声量はすごいんだけど所々で音程が外れてしまっている絶妙な音痴加減を見事に再現できています。
演技が下手な人がこういう音痴の役をやると多分THE音痴という適当さが出ちゃうんじゃないかと思います。
でも主人公のマダムは一生懸命歌って結果音痴となっているキャラです。
メリルの演技には本人は一生懸命歌っているけど、結果的に(しかたなく)音痴になってしまう・・・という絶妙な音痴加減であり、その結果私はメリルの音痴演技パートに入る度に画面の前で大爆笑してました。
もう買収された側からしたら”笑ってはいけないコンサート”ですね。音痴演技をしているメリルの歌声に笑いを必死に堪えている人達の図でさらに笑っちゃいます。
ただそんなマダムにも悲しい過去があります。
17歳の時に梅毒を患い左手の神経が麻痺して50年生きているという結構ヘビーな境遇の人だったのです。梅毒ですから夫婦間の性交渉はできず、夫は影で愛人(レベッカ・ファーガソン)を作っています。
ただ後からわかることですが夫はマダムのことを真剣に愛していて彼女の一生懸命な歌声を馬鹿にされることをひどく毛嫌いしています。描写は微妙でしたが愛人は体の関係だけとは言えないかもしれませんが、マダムへの愛には到底敵わないというのは伝わってきました。ちなみに公認ではないようです。その愛人も2番手のようなポジションを不満に思っていてマダムへの愛の深さを感じて途中で夫の元を去ったりします。
マダムの常時携帯している禁断のブリーフケースの謎も最後に明らかになりますが、切ないものでした。常に死を意識しながら生きているんだなというのが切ないです。
でもマダムが歌う度にやっぱり笑っちゃいます。
夫役のヒュー・グラントの泣いているのか笑っているのかわからないようなくしゃっとした表情も印象的でした。
そして個人的にこの映画で最高に近いポジションだったのがピアニストのコズメですね(役者の人の演技も良いです)。採用されるシーンでも策士な部分を見せ他の候補者は全員マダムの好まないスタイルのピアニストだみたいな嘘800でちゃっかり採用。
初レッスンの時に他の人達のように唖然としたり笑いを堪らえたりしますが、マダムたちと多くの時間を共にすることによって、自分の野心を捨てマダムと一緒にカーネギーホールの舞台に立つことになります。左手の神経が麻痺して右手でしかピアノを弾けなくなってしまったマダムとの左手での連弾シーンはじんわりします。また、クライマックスのコンサートのシーンの本番直前に緊張で怖気づくマダムを励ますシーンはまさに戦友でした。
そしてクライマックスのコンサート。招待された兵士たちは爆笑したり小馬鹿にしたりしてやばいことになりますが、前半で爆笑していた金髪の女性が流れを変えたとこもよかったですね。
あと兵士たちはなんだかんだで楽しんでて好意的に捉えていたと判明するのも。
最後の夫婦のお別れのシーンは涙なしには見られません。涙は出ませんでしたが。
最初は微妙かなと思って観ていましたが、メリル・ストリープを筆頭に登場人物が魅力的ですっかりこの映画の虜となっている自分がいつの間にかいました。
誰も真実を言わず裸の王様をさせられているマダムが可愛そう派・・・というよりは、それで本人が幸せならそれでいいじゃない派に私は所属しているようなので、この映画でやり玉に上げられそうな弱点の部分は特に気にならなかったし、これも一つの愛の形だとか、ピアニストをはじめとする脇役のキャラがいい、というような好印象の方が遥かに自分の中では勝り、なんといってもメリル・ストリープの音痴演技に大爆笑して腹が捩れまくったため、この映画は自分の中では最高でした。
賛否両論あるっぽい映画ですけど、私にとってはめちゃめちゃ賛に傾いたので相当面白かったです。